お香の楽しみ方
- その他
1:日本の香の歩み
お香が日本に伝わったのは、6世紀前半ごろ大陸から仏教が伝来したとき、仏教の儀礼とともに日本へ入ってきました。お香は、仏様にお供えする香・華・灯の大切なものの一つとして、仏教が日本に浸透するとともに、日本人には欠かせないものとなりました。
*飛鳥時代
日本でお香が使われるようになったのは538年(552年の説もある)の仏教伝来のころ。「日本書紀」には595年に淡路島に香木が漂着し、その香りに驚いた島民が朝廷に献上したことが記されている。
*奈良時代
お香は、主に仏前を清め、邪気を払う「供香」として使われていた。鑑真和尚が仏教とともに日本に伝えたとされ、香木などを直接火にくべて香りを出していたと考えられている。
*平安時代
複雑に練りあった香料の香りを楽しむ「薫物」が貴族の生活でさかんに行われる。貴族たちは自ら調合した薫物を炭火で温め、部屋に香りをたきしめたり、衣服へ香りを移す「移り香」を楽しんでいた。
*鎌倉・室町時代
鎌倉時代には香木そのものと向き合い、ひとつひとつの香木の香りを極めようとする精神性が尊ばれるようになる。このころに香木の香りを繊細に鑑賞する「聞香」の作法が確立された。
*江戸時代
江戸時代になると貴族や武士以外に、経済力を持った町人にもお香の文化が広まった。そのなかで、競技制をもたせた「組香」が創作され、優れた香道具や作法とともに「香道」として確立されていく。
*現代
世界中の文化が浸透して急速に変化していく生活に伴い、お香の世界も進化し続けてきた。現代の日本人の暮らしに合うお香が次々に登場し、これからも新しい歴史を刻み続けていくことでしょう。
2:お香の種類
ひと口に「お香」といっても形の違い、使い方の違いなど、たくさんの種類がある。まずは種類と使い分けを覚えていこう。
*直接火をつけるタイプ
お仏壇やお墓にお供えするお線香が、直接火をつけるタイプとしてよく知られている。お香をたく場所によって、形や香りを使い分けられる。
;お線香・スティックタイプ
日本の家庭で一番なじみのあるお香。お仏壇に供える物だけではなく、目的によってさまざまな香りや長さを選ぶことができる。
;渦巻型
長いお香を渦巻き状にしたタイプで燃えている時間が長く、広い部屋や空気の流れが多い場所に適している。
;円錐型・コーンタイプ
円錐の先端に火をつけるタイプで、下にいくほど燃える面積が広くなっていくので香りが徐々に強くなっていく。
*常温で香るタイプ
火を使わずに常温で香るように調合されているので気軽に楽しめ、部屋の飾りや身につけるアクセサリーとしても使える。
;匂い袋
香料を刻んで調合したものが袋の中に入っている。定番の巾着型をはじめ、しおり型や携帯電話につけるストラップ型もある。
*間接的に熱を加えるタイプ
;練香
粉末にした色々な香料に蜜や梅肉を加えて練り、つぼの中で熟成させた丸いお香。平安時代の王朝文学にも「薫物」として登場する。
;香木
香木のたき方には、繊細な香りを鑑賞する「聞香」と部屋に香りを漂わせる「空薫」があり、目的に合わせて用具も使い分ける。
;印香
配合した香料を花や葉っぱなどさまざまな形に押し固めたお香で、色や形の種類が多い。炭で熱した灰の上にのせて香りを楽しむ。
*専門的なお香
主にお寺で使われるお香。家庭ではあまりなじみのないものだけど、お香が本来使われていた目的や歴史に深く関わっている。
;長尺線香
お経を唱えたり、座禅を組んだりするお時間をお線香1本が燃え尽きるまでと定め、その時間をはかるために使われているお線香。
;塗香
仏像にお供えしたり、修行僧が体に塗って身を浄め、邪気をはらうために使う粉末のお香。
;焼香
香木や香草を細かく刻んで混ぜ合わせたお香。使われる香料によって、五種香、七種香、十種香などの種類がある。
;抹香
沈香や白檀などを混ぜ合わせた細かい粉末のお香。仏前でたかれたり、仏像に散布したり、長時間たき続ける時香盤にも使われる
3:香木とは?
香木は香りのする天然の木で、お香の原料に使われる。有名なのが沈香、伽羅、白檀の3種類で、同じ種類の香木でも木によってそれぞれ香りが異なり、その奥の深い香りが昔から人々を魅了してきた。
*沈香
外部から様々要因によって木の一部に樹脂が集まって固まり、樹木が枯れていく過程で熟成されてできる香木。水に沈む香りのする木という意味の「沈水香木」を略して「沈香」と呼ぶ。インドシナ半島、インドネシアなどの熱帯雨林で産出。
*伽羅
沈香とほぼ同じ過程で生まれるが、その香りや樹脂の質の違いによって別格とされている。香道では沈香を六国という6種類に分類し、伽羅はそのなかで最も品位の高いもの。昔はベトナムの限られた地域でとれたが、現在は採取が困難になり、とても貴重な香木となっている。
*白檀
インド、インドネシア、マレーシアなどで栽培されている香木。そのなかでもインドのマイソール地方で栽培されているものが最高の品質とされ、「老山白檀」と呼ばれている。もっとも一般的な香木で、お香以外にも、薬用や彫刻工芸品の材料としても使われる。
*香木を使うときの形状
香木は使い方に合わせ、色々な形に加工される。
;木
最も自然に近い形。使う人が好みの大きさに切り分けて使う。
;角割
仏教儀式や茶道の席で使われる四角くカットした形状。
;爪
仏時のほか、部屋の香りをくゆらせる空薫に最適な細長くカットした形状。
;割
茶道のけいこや仏事のほか、空薫などによくつかわれる形状。
;刻
香木を細かく刻んだもので、お焼香のほか空薫にも使われる。
;重
白檀のみに使われる形状で、掛軸や巻物の防虫に使われる。
4:お香の原料
お香の原料になる天然の香料は数十種類もあり、入手困難な貴重品もたくさんある。主に中国やインド、東南アジアで産出され、お香の原料だけではなく、香辛料や漢方薬として使われるものもある。
*沈香
東南アジアの熱帯雨林で長い時間をかけ、自然の力で作られた希少な香木。薫香料のほか、薬用としても古くから知られている。
*白檀
インドやインドネシアなどで栽培されているポピュラーな香木。彫刻の材料や扇などにも使用される。
*桂皮
シナニッケイ、セイロンニッケイ(クスノキ科)の樹皮を乾燥したもの。シナモンという名前で、世界中で親しまれている。
*丁子
チョウジノキ(フトモモ科)の花のつぼみを乾燥したもの。西洋ではクローブと呼ばれ、古くから香辛料として使われている。
*安息香
アンソクコウノキ(エゴノキ科)の幹に傷を付け浸み出てくる樹脂を集めたもの。スマトラで多く産出される
*大茴香
ダイウイキョウ(シキミ科)の果実を乾燥したもの。八角(スターアニス)ともいい中華料理の香辛料としても使われる。
*竜脳
リュウノウジュ(フタバガキ科)の樹液の結晶で、お香の原料や防虫剤として使われる。主にスマトラ、ボルネオで産出される。
*乳香
ニュウコウノジュ(カンラン科)という木の幹から出てきた樹脂。アフリカ島北部、アラビア海沿岸部、ソマリアで産出される。
*山奈
ベトナム原産の植物で、主に中国南部やインドで採れるバンウコン(ショウガ科)の根茎を乾燥したもの。
*貝香
巻貝の蓋で、香りを長期間持続させる保香剤として使用する。現在では南アフリカ産の貝香が多く使われている。
5:聞香ってなに?
*聞香
精神統一して嗅覚に神経を集中し、お香の香りをじっくりと味わう聞香。ひとつひとつ異なる香木の繊細な香りを楽しむのに適した方法で、専用の道具を使って手順に従ってお香をたく。
手に持った香炉から立ち上がる香木の香りを鑑賞する「聞香」。香炉に入れた灰の中心に穴を作って熱した炭をうずめ、その上にのせた香木に間接的に熱を伝えて立ち上る香りを鑑賞する。
聞香に必要なものは香木や聞香炉をはじめ、香木に熱を伝えるための香炭団、香炭団をうずめる聞香用灰、香木をのせる受け皿の銀葉、火箸、灰押さえ、銀葉ばさみなどです。
*空薫
手の中の香りを静かに楽しむ「聞香」に対して、お香をたいて部屋に香りを漂わせるのが「空薫」。お線香のように直接火をつけて楽しむもののほか、炭を灰にうずめて間接的にお香に熱を伝えて香りを漂わせる方法もある。
6:奥深い香りの世界
お香の香りを鑑賞して楽しむ香道は、お茶の茶道や生け花の華道などと同じく作法を大切にした日本古来の文化。その歴史は室町時代から始まり、香りを鑑賞することを芸術にまで発展させてきた。
定められた作法の通りに香木をたき、立ち上がる香りを鑑賞する香道。香道では香りを「かぐ」とはいわず、「聞く」と表現する。香道には香りを聞いて鑑賞する「聞香」のほかに、数種類の香りを聞き分ける競技の要素が加わった「組香」がある。
*組香
いくつかの香木をたき、香りの違いを聞き分けて当てるものを「組香」という。いくつ当てたかを競い合うのが目的ではなく、香道ではお香の楽しみ方の一つとして取り入れられてきた。5種類の香木を聞き分ける「源氏香」、4種類を聞き分ける「三景香」などが有名な組香だ。
*六国五味
聞香が盛んになった室町時代、さまざまな香木の香りが分類されるようになる。六国五味は香木の香りの分類法で、産地名などから、伽羅、羅国、真南蛮、真那加、佐曾羅、寸門陀羅の6つに分類します。さらにその香りを酸(酸っぱい)、苦(にがい)、甘(あまい)、辛(からい)、鹹(塩辛い)の5つの味で表現しています。